宮城県の防潮堤をめぐる諸問題
宮城県の防潮堤をめぐる諸問題
5月31日
海岸堤防(防潮堤)の高さをめぐる宮城県の硬直性・誤謬
1、6分野に分かれる防潮堤
防潮堤をわかりにくくさせている一つは、海岸の管理をめぐり6分野に分かれていることです。本来ならそれぞれの目的や性格を考慮して決められるべき防潮堤の高さが、それとは関係なく画一的に設定されているという問題があります。6分野とは、以下の通りです。
目的が明確化されている堤防として
①港湾堤防(港湾は県管理分だけで県土木部港湾課担当)
②漁港堤防(県管理分は県農林水産部水産業基盤整備課担当)
③漁港堤防(市町管理分は市町が担当)
④農地海岸堤防(県農林水産部農村整備課担当)
⑤森林海岸堤防(県農林水産部森林整備課担当)*治山堤防とも言います。
上記以外の一般海岸部分は
⑥一般海岸堤防(県土木部河川課担当)*建設堤防とも言われます。
*宮城県では、この6分野の全体を統括する部署はありませんが、事務局的役割は河川課が担っています。ただし、河川課に連絡しても全体像はすぐにはわかりません。
2、堤防の高さはどのように決められたか? 諸条件を無視した宮城県のやり方
(1)そもそもの始まりは国が示した指針(通知)
・2011年7月8日に国より海岸管理部局あてに「設計津波の水位の設定方法等について」が出されました。これは4課長名の通知です。農林水産省農村振興局整備部防災課長・水産庁漁港漁場整備部防災漁村課長・国土交通省水管理国土保全局砂防部保全課海岸室長・国土交通省港湾局海岸防災課長の4者です。
・そこで示された4指針。1)過去に発生した津波の実績(高さ)の整理、2)データが無い場合はシミュレーションによる津波高さの算出、3)設計津波の対象津波群の設定(要するに過去データをグラフ化、集合化する)、4)上記をもとに海岸管理者が設計津波の水位を設定する。
・そして、最後に※で国の指針は以下のように述べています。→「※堤防等の天端高は、設計津波の水位を前提として、環境保全、周辺景観との調和、経済性、維持管理の容易性、施工性、公衆の利用等を総合的に考慮して海岸管理者が適切に設定」
(2)宮城県の海岸堤防はどのように決められたのか? 最終的には国の指針の上記※は無視された
・国の指針にもとづき過去の津波のシミュレーションなどおこない宮城県として指針を示したのが「宮城県沿岸における海岸堤防高さの設定について」(2011年9月9日付文書、宮城県沿岸域現地連絡調整会議発行)です。
・この時の「海岸堤防高の設定(案)」では、まだ国の指針の※は注意書きがされていました。ただし、すでに設計津波高(過去のデータから割出した高さ)に余裕高として1㍍をプラスしたものが必要堤防高となっています。つまり、注意書きには書きながらも、実際は機械的に1㍍をプラスして新計画堤防高の案とされました。
・その後、基本計画堤防高が出されるのが「海岸堤防の整備方針について」(2011年12月28日、宮城県発行)です。
・ここでは、設計津波の水位の設定方法という項目があり、国の4指針が出てくるのですが、この基本方針では※部分の諸条件を考慮して決めるという下りは一切出てきません。つまり、指針の4番目は以下の表現だけしかありません。「上記で設定した対象津波群の津波を対象に、海岸堤防によるせり上がりを考慮して、設計津波の水位を海岸管理者が設定」以上の表現だけですから、諸条件は全く考慮の外に置かれたということです。